桜前線北上中
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 
 


いつまで寒いんだとギリギリさせられた弥生三月だったが。
さすがにお彼岸を過ぎると冬将軍も観念したか、
いきなりのように桜の開花が話題にのぼり始めて、

 「梅の立場がありませんよね。」
 「いやいや、梅の名所だって満開には沸いてたって。」

ただまあ、世間がいろいろ、
この時期にしては随分と騒がしかったんで、
テレビのニュースなんかでは、
ちょっと扱ってなかったかなぁっていうか、と。
そんなお喋りの傍らに、
手にしていた長尺な得物の小尻を、足元のアスファルトにとんっとつけば、
持ち主である白百合さんの身長ほどはあった伸縮型のステンレスポールが、
上下から一気にするする・しゃきんっと、
手元部分へ収納されてく性能の素晴らしさよ。

 「桜といや、今年もまた早いんですかね。」
 「どうかなぁ。一応、開花自体は四月の頭だそうですが。」

応じたひなげしさんが、
そのどこか幼い作りの手の中で
あっち見こっち見しつつ捻くり回しているブツは。
一見いかにもおもちゃの水鉄砲風、
プラスチック製、中が透けて見えるタイプの他愛ないツールだが。
実は実は、その銃口から飛び出したスライムもどきが、
途轍もない粘着力を発揮して。
擦り切れたホウキの柄だろうか、
あんまり頼もしくはない凶器を振りかざしたその手ごと、
ぶんと振り上げたその高さにて、
傍らの酒屋さんの壁へぺたりと貼りつけちゃったお茶目さよ。

 「満開になるのが早いかどうかは、寒の戻りにもよりますしねぇ。」

う〜ん、やっぱり粘着性と速乾性の兼ね合いが課題かなぁと。
高々振り上げた手が縫い止められたため、
雑居ビルに文字通り貼り付いての
爪先立ったまま身動き取れない男子の人四人ほどを見回して、
小花柄のフレアスカートにウエストカット丈のショートコートを合わせ、
インナーにはシャーリングの利いたブラウスも愛らしい、
そんな可憐な姿と裏腹、
とんでもない秘密兵器で、七郎次が叩きのめしたクチとひとまとめして、
通報した警察が来るのを手持ち無沙汰で待っておいでの、
お馴染みさんのお二人だったりし。

 「なあ、助けてくれよぉ。」
 「あんたらだとは知らなかったんだよぉ。」

まずは単なる街遊び中の女子高生だと思ったので、
可愛いじゃん、俺らと付き合わね?と、
執拗にまといついて追いかけたところ、
ショッピングモールの端近く、店と店の間へと誘い込まれたその挙句、
ぶんっといきなり延ばされたステンの錫杖でぴしゃりと叩かれ。
何しやがると息巻いて、掴みかかろうとしたそのまま弾き飛ばされ。
傍観者に回ってたもう一人を、人質に取ろうとしたらば、
スカートのベルト部から抜いた水鉄砲もどきでの狙い撃ちに遭い、
それぞれの手を縫い止められてしまった爲體(ていたらく)。
あわよくばカノ女にするべ、
ダメなら脅しすかして泣かしてから、
小遣いでも撒き上げるべぇなんて、
罰当たりなことを考えていたらしいのが見え見えの
流れだったのを棚に上げ。

 「アタシらじゃなかったら、
  さんざんなぶって泣かせてたんじゃありませんの?」

 「大体、この頭数でってのが まずは許せませんよねぇ。」

大方、前科もあるに違いない。
いいや あんたらは黙ってなさい、
パクられてなきゃ前科と言わないなんてのは
こっちだって判っています、と。
警察関係者が知己にいる身の白百合さんが、
縮めたステンレス槍の端でうりうりと、
頭目格らしかったリーゼント崩れの頬をつついておれば、

 ♪♪♪♪♪〜♪♪、と

今日は珍しいパンツルックだった七郎次、
ありゃとジャケットのポッケへ手を突っ込む。
掴み出したのはスマホで、

 「はい、久蔵殿どしました?」

 追ってった連中は仕留めましたか?
 そうですか、原付を停めてたパーキングまで追い詰めた?
 四人全員薙ぎ払いましたか、やりますねぇ、さすがです、と。

実は彼女もいたんですよの、
久蔵・ヒサコ・三木さんこと、紅バラさんからの連絡へ。
七郎次が鼻高々の聞こえよがしに応じて見せれば、
かすかな希望だった援軍のあても断たれたのが通じたか、
ますますのこと、がぁっくりとしてしまうやんちゃ共であり。
確かにまあ、
そちらを追ってった、エアリーな金髪のクールビューティなお嬢さんこそ、
一番掴みどころのないお人でもあったというのは 薄々気づいていたようで。
それまでは一番無口でいたので、日本語が解らず大人しい子かと思いきや、

『下手
(したで)に出てると思って いい気になんなよっ』 と

シカトのされ続けでテッペン来ていた、
ナンパ担当の自称“業師”とかいう チャラ男くんが切れかかり。
路地裏という人目のないところに入ったそのまま 声を荒げた途端、
真っ先に…指揮者のようにその腕を一閃したのが、他でもない紅ばらさんで。
がちがちがちっという、妙な堅い音がしたのと同時に鋭く風を切る音がして、
此処に居残る小柄なほうの子と向かい合ってたそやつが、
落ち着いて思い出さねば何をされたか解らなかったほどの瞬殺技、
ふくらはぎを パーンッと払われてのこと、
ずでんどうと鮮やかに尻餅ついて引っ繰り返ったのが、
彼らにすれば、いわゆる“悪夢の始まり”だったのであり。

 「は〜い、判りましたvv」

そちらはそちらで別口の補導陣営を呼んだそうなので、
此処での合流は待たずにいいとのことで。

 「それにしても、ヘイさんたら とんでもない命中率ですよね。」

鉛の弾丸が凄まじい加速で飛び出した訳じゃあないとは言っても、
粘着弾を飛び出させたのだ、それ相当な弾みもあった射出だったろに。
しかもしかも、ぶんと振り上げられた手元という、
相当に難しい間合いで狙いを定めて撃ったのだから、
こちらも立派に瞬間技であり。

 「アメリカじゃあやっぱり、射撃とか基本なんですか?」
 「まさかまさか、そんなことをわざわざ奨励しませんて、と。」

ますますのことおっかない内容の会話を 井戸端会議レベルで繰り広げ、
壁に磔ならぬ“貼り付け”になってる男衆を震え上がらせておれば、

 「相変わらずだなぁ、あんたたち。」

文字通り、アーケードマートの“隙間”にあたろう路地裏だというに、
ひょいと飛んで来たお声があって。
補導しに来てくださいなと連絡したのは警視庁勤務の佐伯巡査部長であり、
こんな若々しい女性の声ではなかったはず。
少しは時間も経過してのこと、
援軍が来てもいい頃合いじゃああったれど、
予想しない声音が間違いなく自分たちへと掛けられたのへ、
あれれえ?と、やや警戒もしつつお顔をそちらへと向けたれば、

 「あんたら探すには警察に訊くのが一番ってなぁ、
  一体どういうことなんだかね。」

やれやれという苦笑を乗っけたお顔で、
それは背丈のある頼もしい体躯のお嬢さんが、
路地への入り口側に泰然悠然と立っており。
まとまりの悪いままな髪はやや濃いめのオレンジ色で、
面差しも目鼻立ちのバランスもよく端正じゃああるが、
同時にどこか剛の太々しさを感じさせる 快活そうなそれであり。
フード部分を背中へ垂らしたパーカージャケットに、
ざっくりした編み目のデザインニットのカットソーとTシャツを重ね着し。
ごそっとしたカーゴパンツを合わせたスノボ・ファッション風という、
一見 砕けた装いながらも、
その背条の真っ直ぐさが凛々しいたらないシルエットを描いておいでの、

 「あ、菊千代っ。」
 「うあ、お久し振り〜vv」

何年振りだろうね、こらこらそれは言わない約束よという、
ウチのこの世界じゃあ微妙に“1年以内”に逢ってるはずのお嬢さん、
草野さんチの関西宗家のご令嬢、草野菊千代さんだったのでございます。




     ◇◇


彼女もまた、こちらの三華さんたちとおなじく“転生びと”の一人であり。
しかもしかも、何と七郎次とは
従兄弟の従姉妹というやや遠い親戚にあたる間柄の身でもあって。
なかなかそっちの縁は思い出せないままだったそうだが、
それでも最近、彼女らの大暴れ、もとえ、
活躍をネット記事で見たのにつつかれ、
菊千代のほうでまずはと当時の関わりの記憶が戻っており。
とはいえ、日頃の生活圏が西と東という距離もあることとて、
そうそう逢うことはないかと思いきや、
ひょんなことから再会果たし、
ついでにちょっとした騒動もご持参してくださったのだが。
(『
意外な再会』参照)

 「実は一昨日からこっちへ来ててサ。
  せっかくだから顔くらい合わせてこうと思うじゃないよ。」

ややこしい素人による(笑)恐喝と暴行行為現行犯検挙への収容後、
征樹さんのはからいで、
警視庁のかたがたがよく使うという、
官舎からも真近い商店街の喫茶店にて、
久々に顔を揃えた 三人娘と遠来のお客様であり。
どのお嬢さんもそれぞれに個性的で、
佐伯さんとは一体どういう関わりかしらねなんて、
ママさんが興味津々な視線を寄越す中。
他でもない遠来組の菊千代が、
何でまた あんなややこしい修羅場に顔を出したかを話し始めていて。

 「それで七郎次の家を訪ねようと思って電話したらば、
  お母さんが“今はちょっと出掛けてる”って言うじゃんか。」

 「ちょっと待ってよ。
  アタシ、ケー番つかスマホの番号教えたよね?」

なんでまた わざわざ、
家族の身内の場合 母様が出るよなウチの固定電話に掛けるかなと。
話の腰を折り、怪訝そうな顔で白百合さんが訊いたところ、
赤毛の女弁慶さんはけろりとしたお顔で答えて曰く、

 「そんでも訪問の前にはおウチへ先触れすんのが礼儀だろうが。」
 「…うっ。」

おおお、意外にも程があるやりとりじゃあござんせんか。
そういうことには一番筋を通すというか、気を配りそうな七郎次お嬢様が、
こちら、前世では久蔵と張り合うほど一番疎かったに違いない(失礼)
菊千代にあっさりと言い諭されてしまうなんて…。

 「〜〜〜〜。」
 「…久蔵殿、
  その何か言いたげな眸で、
  言葉の代わりに視線でもって
  さんざんに質問攻めして来るのは止してくださいな。」

言い負かされた七郎次本人には訊けないか、
何でどうして何があったの、シチったらどうしたのと
平八に訊きたいらしく、矢のような視線ですがる久蔵お嬢様なのの傍らでは、

 「さすが、京都育ちのご令嬢だねぇ。」

しっかりしてはると、
佐伯巡査長さんこと征樹殿が、うんうんと感慨深げに頷いていたけれど。

 「スマホにも掛けたけどよ、圏外ですって表示になってたぞ?」
 「え〜、おかしいな。
  Q街は地下街も含めて全面 wi-fi化してなかったっけ。」

そんな事情だったのは何ともイマドキ。
菊千代にしてみれば、彼女らとの運命の再会を果たしたのもそのQ街だったし、
七郎次のお母様も、きっとそこに出掛けたんだと思うとのこと。
まま、関西人の自分でも知らない街ではないことだし、
逢えなきゃ運がなかったと思やいいかと。
流行の最先端とやらには関心ないけど
掘り出し物でもないかとのショッピングがてら、
ぶらぶら歩いてみよっかと立ち寄れば、

 『…おや、珍しい人がいる。』

駅前のロータリーで まずいきなり声を掛けられたのが、
こちらの佐伯さんだったというから穿っており。

 「相変わらず人への当たりは抜群ですねぇ、菊千代ったら。」

礼儀作法で墨つけたことくらい、実はご本人には屁でもないものか。
ちょいと意外な人から言い負かされたものの、
あっさり立ち直った七郎次が
オレンジジュースのストローに口をつけつつ感心して見せれば、

 「…それで済ますか、モモタロよ。」

おや、今度は菊千代嬢の方が、そのかっちりした肩を落としており。
微妙に目元が座ったお顔で、呆れたように言い足したのが、

 「ちょうどよかった、
  今からおシチちゃんを迎えに行くんだ
  ついでに乗ってかない?と、来たんだぞ?」

 「まあまあまあ、征樹様たら公務中にナンパ?」
 「しかも女子高生を公用車で?」

ご丁寧にも“いやぁん”というポーズつきで、
すかさず上がったのが七郎次と平八からのそんな合いの手で。
それへの佐伯さんのお返事は、

 「今日の車は私物です。」

そこかい。(苦笑)
斜めに着地するのはお手の物なところも相変わらずの顔触れなのへ、

 「???」
 「うんうん、
  こういうときは久の字がいてくれて助かるよ、俺。」

戦闘態勢への感度は抜群に研ぎ澄まされているくせに、
今の即妙な(?)受け答えが今一つ把握出来なかったらしく、
キョロキョロしている赤い眸の紅胡蝶さんへ、
はぁあと安堵の吐息をついた菊千代で。
冗談はともかく、

 「東京だってのに いきなり警察関係者に顔が指してるわ、
  そんなお人から、
  こっちでの友達を指して
  “迎えに行くところなんだ”なんて言われるわだぞ?」

やれやれと肩をすくめて見せて、

 「顔出しとかんと何言われるか判らんしなぁなんて、
  妙な義理を思うんじゃなかった。」

実のところは、その時点でややげんなりしかかったんだからなと、
こちらの3人娘の桁外れなお転婆ぶりを揶揄した西のお嬢様であり。

 “おおお、意外な援軍かvv”

今日の騒ぎはこれでも穏当なほうであり、
怪我をするかもというような乱闘騒ぎから、
彼女らの立場を危うくするやも知れぬという暗部関わりの代物まで。
それほどの大事へさえ、怖じけることなく首を突っ込むのも相変わらずで、
あの勘兵衛がクギを刺しても、なかなか懲りない困ったお嬢さんたちへの、
効果的なお説教が出来る人、常時大歓迎状態だった征樹殿だったもんだから。
過去も共有していて、しかも先程の作法上の意見も出来るよなお嬢さんなら、
これはもしかして強力な助っ人、
いざとなったら
“菊千代さんに報告しますよ、ばつが悪いでしょ?”
と持ち出せる、絶好の切り札になるかと思いきや。

 「でもサ、菊千代さんだって。」
 「そうそう。確か祇園祭の最中に、
  西京極で修学旅行生徒相手に大乱闘おっ始めたって。」

  ……………はい?

警察関係者でなくとも聞き捨てならない騒ぎの、
しかも中核におわしたような言われようなその上、

 「げっ。何でそれをっ。/////////」

否定したり途惚けるどころか、
やや慌てつつ、何で知ってるんだと
あっさり肯定しちゃった、山科の女弁慶様であり。

 「正宗のおっちゃんにしこたま叱られて、
  何とか実名とか出ないようにって、取り計らってもらったのに。」

 「SNSを舐めてはいけません。
  名前なんて出なくとも、動画や画像で判る人には判ります。」

へっへ〜んと形勢逆転に胸を張るのがひなげしさんなら、

 「ねえねえ、その正宗のおじさまって、もしかしてvv」

 「ん? ああ、明石の御大で西草野のご意見番だ。」

 お前、ここんとこ親戚付き合いスルーしてっから忘れたんじゃね?
 いやそうじゃなくて、もしかして…。
 ああ・うんうん。あの“マサムネ”のじいさんだよ、と。

判る人にしか判らないよな、昔話っぽい会話に花が咲いたのはともかく。
実は似たような騒動を、遠い西の空の下でやらかしていた辺り、
こちらの元・侍ガールも似たような素行のお嬢様なのらしく。

 「でもでも、あんまり騒動起こすと部活に響くんじゃないの?」
 「そこは、だから…毎回説教されてるワケなんだよな。」

そか、それで正宗さんに頭が上がらないのね、相変わらずと、
七郎次が軽やかに笑う傍らでは、

 「何なら いいお道具、用立てましょうか?」

今日のだって、
殴られそうだったから使ったって、
防犯グッズだと言い抜けられる代物ですしと、
恵比寿顔になってお薦めはなんて言い出す平八だったりするものだから。

 “勘兵衛様、早く戻って来て下さいな〜っ。”

別の案件でよそに出ておいでの、
事実上この子らの保護者も同然の壮年警部補、
現在も過去も上司なお人を、
ついつい心の中で呼んでしまった征樹殿であっても無理はない、
そんなお元気印な春日和の一幕でございましたとさvv





    〜Fine〜  14.03.27.


  *山形までコマチくんに逢いに行った帰り道でしょうか、
   西から桜より先にやって来た、
   やっぱりお嬢様なはずのお友達でしたが。(ぷぷーvv)
   彼女もまた、
   こちらさんを非難出来るほど真っ当でもないような。(う〜ん)
   道頓堀川に蓋はないでぇとか、(なので、いつでも放り込めるぞと)
   地方色満々な決め台詞で恐れられてるお人では、
   確かに説教出来る立場じゃないよなぁ…。

めーるふぉーむvv ご感想はこちらへvv

メルフォへのレスもこちらにvv


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